まだ壊せない

あれだけの怒りが心に沈んでいったいま、きっとここにあるのは虚無だけだ。
それが歳をとるってことなのかな。

 

無知と白痴。
失敗するたびにいろいろ塗り潰してきた。笑えるよ。
無恥と吐く血。
偽りの言葉が何よりも透けて見えた。笑えるよね。

 

花が空を眺めるように、なんとなく、ここにいるこの瞬間を見ていた。
水たまりに反射した雨粒が染み込んでは消えた。
あの大きな観覧車の行方を、早送りで見ようとした。
見たことのない顔で笑うあなたを、自分でも呆れるほどに想っていた。

 

誰かと同じ感性で話をしたかった。
誰かと同じ歓声で笑いたかった。

誰かと同じ、誰かの側で、何も言わずに、夢から覚めて、自分から、許されなかった、自分の肩を抱くことを覚えた。

 

他人を傷つける覚悟がないだけ。
それを優しいと呼ぶなら、世界は単純だらけだ。
あなたを傷つける覚悟がないだけ。
それを優しいと呼ぶのは、どこか間違ってるかな。

 

ひびに覆われた目で、毎日役にも立たない鏡を見る。
日々に覆われた耳で、一生薬にもならない言葉を聞く。

 

愛されたいだとか、愛されないだとか、言うだけならいくらでもできた。
感性か、呼吸か、どちらかしか手に入らない。


太陽が水平線に落ちて砕けたあとの、機械の空を見上げていた。
そして、少しだけ立ち尽くしたりした。

 

退屈じゃないのに、腐敗するほど時間はある。

だけど、それを使って何かをする気もない。

 

「抜け殻だけの存在になれば、永遠になれるかもしれない」。
「悪い場所だけを取り除く、都合の良い手術がしたい」。
「記憶の中では笑っているくせに、悲しいふりをするな」。

 

青い鳥なんて、ペットショップにでも行けば売ってるよ。

痛いくらいにきれいなのは、壊れないように誰かが塗ったから。

 

寝て、起きて、少し笑って、するべき事をしながらやり過ごして、それでも足りないものを幸せって言ってみただけ。

 

だけど、私も欲しいってきっと言う。
青い鳥だって、三日も放っておいたら死んでしまうよ。
私達と同じように儚いから。

 

さよなら。
明日も、どうか、壊れないように。