まだ帰れない

理由なら、あった。
今はない。
だけど、いつまでも笑っている。
覚えたことをなぞっている。

 

生きるのを躊躇うくらいなら、すぐに消えてもよかった。
あなたが幸せそうに笑うたび、私は身体の中に身をひそめる。

 

あなたはきっと、苦しんでいる。
私とは関係のない場所で、ただ静かに。
私は、それを知っている。

 

恨みや痛みをコンクリートに詰めて、普通になったつもりだった。
だから、根元は変わらない。

昨日を向きながら、少しだけ狂った。

 

失ってばかりだ。

小さな未来を見ていた。

ふたりきりで寄り添ってた。

点滅するようにあなたは笑う。
それだけ。

あなたに何か伝えたことがあっただろうか。
私のことだけど、わからない。
あなたに何か伝わったことがあっただろうか。
そこにいるけどわからない。

 

私たちの距離がゼロ以下になるのなら、私はこんなに黙ったりはしない。
私たちの距離が離れ続けていくのなら、私はこんなに黙ったりはしない。
私たちの距離が変わらないと言うなら、私はこんなに黙ったりはしないはずで。

 

手だけを重ねていた。
いつまでも重ねていた。

 

外は、雨だった。

少しだけ澄んでいた。

もう帰れない、と思った。

 

どこかへ行くのも億劫だった。