まだ意味がない

この胸に閉じ込めて欲しい。
毛布でくるんだ秘密を思い出したら、どうか殺して欲しい。

 

液晶画面が、夜の中で、サーチライトみたい。


君は一人じゃないなんて話しだす。
メルヘン。幸せの話。最初の嘘。最後の嘘。
全てが、遠くにありそうで、届かない。

答えが出るまで、正しいことを喋れそうにない。
白痴と、思い込みが一番恥ずかしい。
幸せだとか、光だとか、そういうもの全てに鍵をかけた。
鳴り止まない心臓。

軽薄な君の軽薄な言葉が、一番憂鬱になる。
「欲しい」ものなんて何もないのに、どうして笑っていられないんだろう。

 

土砂降り。

遠鳴り。

固いベッド。

 

例えサナトリウムの中でも、生活できるのなら羨ましい。

 

もうきっと、言葉の中で擦り減ってしまったから、信号なんて意味がない、感情が揺れて、自分を庇う。
そうやって、窮屈に生きても仕方がないでしょう。

 

愛情。
好意的な呪い。
疲れ果てて、最初から無かった価値も失くしていく。

 

モニター越しの温もり。

 

信じて「欲しい」のに信じたくないもの。
許して「欲しい」のに許せない自分。

 

ようやく、風が死んだ。
結局ここは冷たいままだった。
いつものように、今日も死んで、緩衝材と一緒に埋められた。
机の上に忘れたグラスに、誰かの寂しさは残っているのかはわからない。


それでも、明日起きたらきっと洗わなきゃ。


感覚をなくす手。
いつまでも自分の手。

まだ全てが捨てられない

明日のことなんてわからない。
明日の明日なら尚更。


だけど、また、辿りついた。

今日も笑っていた。
昨日より少し、疲れていた。
理由は砂の絵のようにあやふやになった。

いつも通り、気がふれそうなまま。
大切なものなんて、悲しんでいるあなたくらいで。

 

さっきまで笑っていた。
でも、それだけだった。
心に振り回されて、息もできないあなたをただ見ていた。

手を伸ばしあっていた。
だけど繋げなかった。
「一生なんてありえない」、あなたはそれだけ言って俯いた。

 

適度に失って、適当に笑って、黙って殺しあう。
それが生きるってことだって誰かが言っていた。
大人になることに意味はない、ってなんとなく、思っていた。

 

さっきまで笑っていた。
でも、そこまでだった。
ひとりぼっちの私をかえしてくれたあなたと、少し溶けたアイスクリームを分け合う。


心だけが窓の向こうに飛んでいく。
なにかが狂いそうだから早く壊して。

 

つまらない時も笑う癖をやめたら、明日が少しでも確かなものに見えるのかな。
生まれ変わったら、笑わない人になろう。


白い粉を塗りたくるのにも、黒い羊でいるのにも疲れてきたんだ。
ナイフの隅のほうで傷ついた。
神様にわがままを聞いてもらおうとした。


かけた月に存在を見ていた。

 

水槽。


魚たちは数えきれないくらいぐるぐる死んでいくのに、水族館はずっと残り続けるなんて、それこそ、死んだかのように怖くなる。


でも、それがすべて。
私たちのすべて。

まだ壊せない

あれだけの怒りが心に沈んでいったいま、きっとここにあるのは虚無だけだ。
それが歳をとるってことなのかな。

 

無知と白痴。
失敗するたびにいろいろ塗り潰してきた。笑えるよ。
無恥と吐く血。
偽りの言葉が何よりも透けて見えた。笑えるよね。

 

花が空を眺めるように、なんとなく、ここにいるこの瞬間を見ていた。
水たまりに反射した雨粒が染み込んでは消えた。
あの大きな観覧車の行方を、早送りで見ようとした。
見たことのない顔で笑うあなたを、自分でも呆れるほどに想っていた。

 

誰かと同じ感性で話をしたかった。
誰かと同じ歓声で笑いたかった。

誰かと同じ、誰かの側で、何も言わずに、夢から覚めて、自分から、許されなかった、自分の肩を抱くことを覚えた。

 

他人を傷つける覚悟がないだけ。
それを優しいと呼ぶなら、世界は単純だらけだ。
あなたを傷つける覚悟がないだけ。
それを優しいと呼ぶのは、どこか間違ってるかな。

 

ひびに覆われた目で、毎日役にも立たない鏡を見る。
日々に覆われた耳で、一生薬にもならない言葉を聞く。

 

愛されたいだとか、愛されないだとか、言うだけならいくらでもできた。
感性か、呼吸か、どちらかしか手に入らない。


太陽が水平線に落ちて砕けたあとの、機械の空を見上げていた。
そして、少しだけ立ち尽くしたりした。

 

退屈じゃないのに、腐敗するほど時間はある。

だけど、それを使って何かをする気もない。

 

「抜け殻だけの存在になれば、永遠になれるかもしれない」。
「悪い場所だけを取り除く、都合の良い手術がしたい」。
「記憶の中では笑っているくせに、悲しいふりをするな」。

 

青い鳥なんて、ペットショップにでも行けば売ってるよ。

痛いくらいにきれいなのは、壊れないように誰かが塗ったから。

 

寝て、起きて、少し笑って、するべき事をしながらやり過ごして、それでも足りないものを幸せって言ってみただけ。

 

だけど、私も欲しいってきっと言う。
青い鳥だって、三日も放っておいたら死んでしまうよ。
私達と同じように儚いから。

 

さよなら。
明日も、どうか、壊れないように。

まだ帰れない

理由なら、あった。
今はない。
だけど、いつまでも笑っている。
覚えたことをなぞっている。

 

生きるのを躊躇うくらいなら、すぐに消えてもよかった。
あなたが幸せそうに笑うたび、私は身体の中に身をひそめる。

 

あなたはきっと、苦しんでいる。
私とは関係のない場所で、ただ静かに。
私は、それを知っている。

 

恨みや痛みをコンクリートに詰めて、普通になったつもりだった。
だから、根元は変わらない。

昨日を向きながら、少しだけ狂った。

 

失ってばかりだ。

小さな未来を見ていた。

ふたりきりで寄り添ってた。

点滅するようにあなたは笑う。
それだけ。

あなたに何か伝えたことがあっただろうか。
私のことだけど、わからない。
あなたに何か伝わったことがあっただろうか。
そこにいるけどわからない。

 

私たちの距離がゼロ以下になるのなら、私はこんなに黙ったりはしない。
私たちの距離が離れ続けていくのなら、私はこんなに黙ったりはしない。
私たちの距離が変わらないと言うなら、私はこんなに黙ったりはしないはずで。

 

手だけを重ねていた。
いつまでも重ねていた。

 

外は、雨だった。

少しだけ澄んでいた。

もう帰れない、と思った。

 

どこかへ行くのも億劫だった。